FIREした直後のうれしさが、そのまま続くとは限りません。でも、自由な暮らしに慣れることと、暮らしへの満足がなくなることは別です。
退職の研究には、退職時に高まった生活満足度が、その後も維持された例があります。一方、今回確認した研究だけでは、40〜50代でFIREした人の幸せが「何年続くか」までは分かりません。[1]
僕は41歳。妻と子ども2人の4人家族で、50歳でのFIREを目指しています。
先日、FIREしたらやりたいと思っている過ごし方を、少しだけ試しました。その感想が、自分でも意外だったんですよね。
悪くないけど特別でもないなって感じ。いつもの日常かな。
仕事を辞めて毎日が自由になったら、僕はどう感じるんだろう。研究と実際に早期退職した人の記録から、考えてみました。
理想のFIRE生活を少し試したら、「いつもの日常」だった
僕がFIRE後にしたいのは、時間に縛られない、わりと普通の暮らしです。
自転車で街を走って、図書館で時間を気にせず本を読む。自分で作った弁当を食べて、コーヒーを飲む。帰る時間も自分で決めて、妻と料理や晩酌を楽しむ。
ときには近場の山や、行ったことのない日帰り温泉にも出かけたい。毎日、高いお金を使って遊びたいわけではありません。
2026年10月、仕事の合間に、自転車で図書館へ行き、途中で食事をしました。理想にしている一日の、一部分を試した形です。
悪くはない。でも、ものすごく幸せかと聞かれると、そこまででもない。いつもの日常かな、という感じでした。
これはFIRE後の体験ではありません。仕事のある生活の中で、一度試した感想です。 この一日で、退職後に満足できるかどうかは判断できません。
ただ、「好きなことができれば、毎回特別な気分になる」とは限らない。そのことは、今のうちに分かってよかったと思います。
では、その普通の日が毎日になったらどうなのか。そこが気になりました。
「自由に慣れる」と「幸せでなくなる」は同じではない
まず分けたいのは、その瞬間の気分と、生活全体への満足です。
| 考えたいこと | 例えば、こんな感覚 |
|---|---|
| 退職直後の解放感 | 明日から出勤しなくていい、とうれしくなる |
| 日々の楽しさ | 自転車に乗ったり、人と話したりして楽しい |
| 生活への満足 | この暮らしを続けたいと思える |
| 生きがい・つながり | やってみたいことや、会いたい人がいる |
これはこの記事で考えるための整理です。「解放感が薄れたから、ほかも全部なくなる」とは限りません。
うれしい変化にも、人は慣れていく
良い変化による喜びが、時間とともに弱まっていくことを、心理学では「快楽順応」と呼びます。
SheldonとLyubomirskyの2012年の研究は、学生481人を3か月間、3回調査し、良い変化から得られた幸福感が薄れる過程を検討しています。[2]
ただし、学生の研究です。これを根拠に「FIREの喜びは3か月で終わる」とは言えません。
退職直後の解放感を、ずっと感じ続ける前提にはしない。そのくらいに受け止めたいです。
退職後も、生活への満足が維持された研究はある
一方、フィンランドの公的部門の職員3,543人を調べた2022年の研究では、退職への移行期に生活満足度が上がり、その後の観察期間も安定していました。特に変化が大きかったのは、生活の気楽さに関する項目です。[1]
平均退職年齢は63.8歳。退職前2回・退職後3回を最大として、年1回の調査を行った研究です。対象の83%が女性で、40〜50代のFIREを直接調べたものではありません。
それでも、「退職しても慣れるのだから、満足は必ず元に戻る」と決めつける必要はないと分かります。
僕の図書館での一日も、特別ではなかったからといって、不満だったわけではありません。この違いは、見落とさないようにしたいです。
自由時間は、長ければ長いほど幸せなのか
研究から見えるのは、自由時間の量だけでは満足を説明できない、ということです。
2021年のSharifらの研究は、米国の計35,375人の調査データと、自由時間のある生活を想像してもらう実験を分析しました。時間が足りないことは低い幸福感と結びつく一方、時間が多いほど幸福感が上がり続けるわけではありませんでした。[3]
実験では、自分にとって意味や手応えのある活動に時間を使うと想像した場合、自由時間が多いことによる不利は見られませんでした。
ここでいう手応えは、収入や仕事の成果だけの話ではありません。また、実験は生活を想像して答えるもので、実際にFIREした人を長年追跡したものではありません。[3]
「暇になったら、何か成果を出さなきゃ」と考えると、それはそれで疲れそうです。
僕なら、料理を作る、本を読む、近くの知らない場所を走ってみる。その時間を自分がどう感じるかを確かめたい。休んで気持ちよく過ごせた日まで、何も成し遂げていないと採点する必要はないと思っています。
「自分で選べる」に、手応えやつながりを足して考える
自己決定理論という心理学の理論では、自律性・有能感・関係性という三つの基本的な欲求を重視します。簡単に言えば、自分で選んでいる感覚、できるという手応え、人とのつながりです。[4]
この考え方を僕の生活に当てはめるなら、こんな見方ができそうです。
| 見方 | 僕なら、こんな時間が候補 |
|---|---|
| 自分で選ぶ | 今日はどこへ行くか、いつ帰るかを決める |
| 手応えを感じる | 料理やブログで、少し工夫してみる |
| 人とつながる | 妻や友人と話し、一緒に過ごす |
これは研究で決められたFIREの正解ではなく、僕なりの当てはめです。自由な時間が増えたあと、ほかに何がほしいのかを考える助けになります。
FIRE経験者の記録も、「幸せか、退屈か」の二択ではなかった
早期退職した本人の記録を読むと、時間の経過だけでなく、その人の関心や生活の変化が見えてきます。
満足しているからこそ、次の挑戦がほしくなる人もいる
「Our Next Life」のTanja Hesterさんは、早期退職から約2年が過ぎた2020年の記事で、旅行や家族・友人との時間などを振り返っています。その一方、同じことを続けるだけでは物足りなくなるかもしれないとも書いています。[5]
暇を持て余すというより、自分の生活が何につながるのか、という意味での物足りなさ。そこで新しい挑戦を求めていました。退職後も執筆・出版などに取り組んでいる人の記録です。
僕には、「FIREに飽きたから失敗」という話より、自由な生活の中でも、やりたいことが変わっていく話に読めました。
幸せだった数年間のあと、生活条件が変わった人もいる
「Living a FI」の筆者は、2015年に早期退職し、2021年の記事で、その後を振り返っています。退職後の数年間は、働いていた頃より幸せだったと記しています。[6]
その後、健康上の問題や離婚、孤独感、家計条件の変化が重なり、再就職しました。仕事は収入や医療保険に加え、人と関わる機会にもなったと述べています。
一方で、本人は早期退職したこと自体を後悔しているとは書いていません。
この体験を「FIREすると暇になって不幸になる」と要約すると、大事な部分が抜けてしまいます。 健康や家族関係が変われば、望む暮らしや必要なお金も変わる。僕はその点を受け止めたいです。
どちらも海外の個人の記録で、FIREした人全体を代表する調査ではありません。あくまで、退職後の暮らしには違う展開があることを知る材料として読みました。
僕が気になるのは、一人の時間と、人と過ごす時間
僕は一人で過ごす時間も好きです。ただ、それが毎日続いたら、こんな気持ちになるかもしれません。
なんか誰かと飲みたいなとか誰かと遊びたいなとかなるかも。
英国の退職者424人と比較対象424人を扱った2016年の研究では、退職に伴って所属するグループを失うことと、その後の生活の質の低さに関連が見られました。追跡期間は6年です。[7]
観察研究なので、集まりに参加すれば必ず満足できるとまでは言えません。ただ、僕自身の不安を考えると、仕事以外でも人と関われる場所は持っておきたいです。
今の気持ちは、こうです。
奥さんが基本で、奥さんと共通の友達をやっぱり作っていきたいなって思う。
妻と過ごす時間を大切にしつつ、ほかの人とも飲んだり遊んだりできる。そんな暮らしがいいなと思っています。
妻にも、妻の過ごしたい時間がある
妻とはFIRE後の生活について話したことがあります。僕は、一緒にいること自体は苦ではありません。
ただ、ずっと同じ予定で動くより、曜日や時間帯によって、それぞれが一人で過ごす時間を作るのもよさそうです。具体的な配分や妻自身の希望は、まだ確認できていません。FIREする頃、あるいはFIRE後に相談したいと思っています。
日本の女性3,794人を対象とした研究では、夫の退職後、妻の心理的な不調の指標が平均では小幅に上がり、その後、元の水準に近づく傾向がありました。退職前の社会参加や夫婦の交流などによっても、その後の推移は異なっています。[8]
「夫が家にいると妻は不幸になる」という単純な話ではありません。まして、この研究から、わが家に合う一人時間の長さは分かりません。
僕が妻と過ごしたいことと、妻がどう過ごしたいかは、別々に確かめる必要がありますね。
FIRE前に試したいのは、「またやりたい」と思えるか
今の僕にできるのは、理想の暮らしを少しずつ試すことです。
以前、FIRE・定年後に何をして過ごすかという記事で、やりたいことや一週間の予定を考えました。今回は、その中の一つを実際にやってみたわけです。
次は「一日を埋められたか」だけでなく、こんなことも見てみたいです。
| 試したあとに考えること | 確かめたいこと |
|---|---|
| 来週も、またやりたい? | 一度きりの楽しさか、繰り返したい日常か |
| 一人でよかった? 誰かと話したくなった? | 自分に合う人との距離感 |
| 何があれば、もう少し楽しめそう? | 場所・相手・過ごし方を変える余地 |
図書館の一日なら、今の答えは「悪くないけど、特別でもない」。無理に「最高だった」に変えず、もう何度か試してみたいです。
使ったお金も記録しておけば、FIRE後の生活費を考える材料になります。満足できる過ごし方と、その費用を一緒に確かめていくつもりです。
「FIRE生活ガチャ」という案も浮かんだ
毎日、何をするか考えること自体が面倒になるかもしれません。そこで思いついたのが、「FIRE生活ガチャ」です。
図書館、日帰り温泉、サイクリング、近場の散策。あらかじめ入れた候補から、その日の過ごし方をランダムに選ぶ。気乗りしなければ、断ってもいい。
ただ、断ってばかりで家から出なくなったらどうしよう、とも思います(笑)。候補の中に、人と会うきっかけも入れた方がいいのかもしれません。
まだ構想段階で、アプリを作ったり、使ってみたりしたわけではありません。幸せが続く効果を確かめた方法でもありませんが、自分では選ばなかった過ごし方を試すきっかけとして考えています。
特別ではない日も、続けたいと思えるだろうか
今回調べて、FIREしたら幸せが何年続くのか、という答えは出ませんでした。
自由な生活に慣れる可能性はある。一方で、慣れたあとも暮らしに満足できる可能性はある。その先は、健康や家族、人との関わり、自分がやりたいことによっても変わっていくのでしょう。
僕はまだFIREしていません。図書館へ行ってみても、「毎日これでいい」とまでは分かりませんでした。
次は妻と出かける日も、一人で過ごす日も、もう少し試してみたい。誰かと遊びたくなるなら、そのつながりも今から大切にしたいです。
FIRE後も幸せでいられる生活を、FIRE前から少しずつ育てられるのではないか。
今は、そう考えています。まずは、来週もまたやりたいと思える過ごし方を、一つ確かめてみます。
参考にした研究・体験記
研究は主に一般的な退職や幸福感を扱っています。FIRE経験者の記録とは、根拠の種類を分けて参照しています。
- Prakash, K. C. ほか(2022)Changes in life satisfaction during the transition to retirement: findings from the FIREA cohort study. European Journal of Ageing, 19, 1587–1599.
- Sheldon, K. M. & Lyubomirsky, S.(2012)The Challenge of Staying Happier: Testing the Hedonic Adaptation Prevention Model. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(5), 670–680.
- Sharif, M. A., Mogilner, C. & Hershfield, H. E.(2021)Having Too Little or Too Much Time Is Linked to Lower Subjective Well-Being(論文PDF). Journal of Personality and Social Psychology, 121(4), 933–947.
- Ryan, R. M. & Deci, E. L.(2000)Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being(論文PDF). American Psychologist, 55(1), 68–78.
- Tanja Hester(2020年2月12日)Doing the Thing That Scares You. Our Next Life. 本人による体験記。
- Living a FI(2021年3月17日)The 2021 Early-Retirement Update. 本人による体験記。
- Steffens, N. K. ほか(2016)Social group memberships in retirement are associated with reduced risk of premature death: evidence from a longitudinal cohort study. BMJ Open, 6, e010164.
- Oshio, T.(2021、オンライン先行公開2020)What Factors Affect the Evolution of the Wife’s Mental Health After the Husband’s Retirement? Evidence From a Population-Based Nationwide Survey in Japan. Journal of Epidemiology, 31(5), 308–314.
出典確認:2026年10月13日。本文中の体験談の紹介は、原文の要約です。

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