営業の訪問件数は意味ない?約20年の経験から考えるKPIの使い方

家計

営業の訪問件数をKPIにすることには、意味があります。活動が足りているかを確かめたり、仕事の進め方を見直したりする手がかりになるからです。

ただし、訪問件数だけでは、営業の成果も、お客さんの役に立てたかどうかも分かりません。

僕は医療系の営業を約20年続けています。同じお客さんと継続して関わり、情報提供や問い合わせへの対応を重ねる仕事です。

一度の訪問だけで成果が決まるわけではなく、それまでのやり取りの積み重ねも関わります。その中で僕が大切にしているのは、必要なときに相談してもらえる関係です。

だからこそ、「この件数を追うことで、何が良くなるのだろう」と考えることがあります。

この記事では、こうした継続的な関係を築く営業を中心に、訪問件数を管理する意味と限界を、僕の経験と公開研究から考えます。KPIに納得できないとき、現場で確認できることも整理しました。

株パパ

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営業の訪問件数をKPIにする意味はある

訪問件数は、営業活動の一部分を見るための数字です。使いどころが合っていれば、改善に役立ちます。

KPIとは、目標に向けて仕事が進んでいるかを確かめるための重要な指標のこと。営業では、売上だけでなく、商談や訪問の件数なども使われます。

例えば売上が伸びていないとき、理由が「お客さんと会えていない」なのか、「会っているけれど、提案が合っていない」なのかで、必要な対応は違います。

見る数字分かることそれだけでは分からないこと
訪問・面談件数接点を持った量相手の課題を理解できたか
提案件数提案する段階まで進んだ量相手に適した提案だったか
売上・受注額得られた結果結果を生んだ理由や今後の見込み

売上のような結果を示す数字に対し、訪問件数などは、成果が出る前に確認する「先行指標」の候補です。ただ、早く集計できるだけで、売上を予測できる数字になるわけではありません。

新人が活動のリズムをつかむときや、新しい顧客との接点を増やしたいときには、件数を確認する意味があると思います。

一方、すでに十分な接点があるのに売上が伸びないなら、件数を増やす前に、別のところを見る必要があります。

約20年の営業で大切にしてきた、訪問回数だけでは測れないこと

僕が大切にしているのは、必要なときに思い出してもらい、相談してもらえる存在であることです。

実際に、お客さんから問い合わせをいただくことがあります。そのときは、質問に早く答えるだけでなく、「なぜ今、それを知りたいのか」を理解して、必要な情報を届けたいと思っています。

同じ質問でも、単に事実を確認したいのか、判断に迷っているのかで、必要な説明は変わります。僕は、そこを丁寧に考えたいです。

もちろん、会って話すからこそ分かることもあります。訪問を減らせばよい、という話ではありません。

ただ、会った回数と、相手が必要としている情報を届けられたかは、同じではないんですよね。

経験年数より、今のお客さんとの関係を見る

長く営業をしていると、初めて接点を持つ相手もいれば、すでにやり取りを重ねている相手もいます。両者に同じ頻度で訪問することが、いつも適切とは限らないと思います。

例えば、次のように考えられます。

お客さんとの段階確かめたいこと
まだ接点が少ない必要な相手に接触できているか
課題を理解する途中困りごとや判断に必要な条件を確認できたか
継続してやり取りしている状況の変化を把握し、必要な対応ができているか

これは、僕が考える整理の例です。「ベテランなら訪問しなくていい」という意味ではありません。経験が長くても、新しい担当先や商品では接点づくりが必要になります。

また、問い合わせが来るからといって、自分の営業方法が優れている証明にもなりません。商品力や市場、会社の支援、過去の積み重ねにも支えられています。

それでも、自分が何を大切にして働くかは、言葉にしておきたいです。仕事のやりがいについては、営業を約20年続けて考えた「仕事にやりがいは必要か」にも書いています。

営業KPIがおかしいと感じたら、「1件」の定義を確認する

件数の多い・少ないを比べる前に、同じものを数えているかを確かめる必要があります。

例えば、「アポイント数」「実際に面談した回数」「電話なども含む活動件数」は別の数字です。予定を取っただけなのか、実施したのかによっても意味が変わります。

次は、特定の会社の制度ではなく、数え方を確認するための例です。

確認する項目あらかじめ決めたいこと
対象になる活動対面、オンライン、電話などを含めるか
集計する単位面談の回数、相手の人数、訪問先の数のどれか
同じ相手への複数の対応まとめて数えるか、別々に数えるか
中止・不在・資料の送付実施した面談と区別して記録するか
判断に迷う活動誰に確認し、回答をどこに残すか

定義が違えば、同じ仕事でも件数は変わります。そのまま比較すると、活動の違いではなく、数え方の違いを評価してしまうかもしれません。

評価に使うなら、達成・未達が評価にどう影響するのか、どの記録を根拠に判断するのかも、事前に共有してほしいところです。

数字にしにくい仕事を上司が判断すること自体は必要だと思います。ただ、判断する余地があることと、判断基準が伝わっていないことは別です。

KPIが目的化すると、顧客より数字を優先しやすくなる

件数の達成だけが強く求められると、「相手に何を届けるか」より「どうすれば件数になるか」を考えやすくなります。

例えば、本当は資料を調べて回答すべきところで、件数になる訪問を先に入れる。相手にとって必要な頻度より、集計期間内の数字を優先する。そんな運用では、活動量が増えても仕事が良くなるとは限りません。

指標を目標として強く追うことで、本来測りたかったものから数字が離れてしまう。この問題を考える手がかりが、グッドハートの法則です。解説論文では、指標を評価目標として使うことの意図しない影響が論じられています。

だからといって、KPIを置けば必ず失敗するわけではありません。「その数字だけを良くする行動が、仕事全体にも役立つのか」を点検するための考え方です。

また、数え方が曖昧なことと、事実と違う報告をすることは別問題です。ルールに疑問があるときも、活動は正確に記録し、判断に迷う部分を確認することが出発点になります。

研究では、訪問件数と営業成果の関係をどう見ているか

研究からも、「訪問件数は無意味」「管理を強めれば成果が出る」と、一方に決めることはできません。そもそも、何を調べた研究なのかを区別する必要があります。

MRの訪問研究は、「訪問しても売れない」と証明したものではない

金沢市立病院の研究では、MR(医薬品の情報提供を行う担当者)の訪問回数と、同病院の各医薬品の購入金額との相関は認められませんでした。

ただし、比較したのは2012年の訪問記録と2010年度の購入金額です。訪問を増やした後に、売上が伸びるかを検証した研究ではありません。 一病院の結果を、営業全般に当てはめることもできません。

この研究は、訪問記録簿を改善すると記載不備が減り、情報提供活動を把握するのに役立つことも報告しています。訪問回数と購入額に相関がなかったことと、活動を記録する意味がないことは別です。

出典:宇夛裕基ほか(2014)「MRの情報提供活動の把握における訪問記録簿の有用性」

営業管理と成果には、小さな正の関係も報告されている

一方、39研究・計6,678人のデータをまとめたメタ分析では、行動に着目する管理と、売上などの成果に着目する管理の両方に、売上成果との平均的には小さな正の関係が報告されています。

メタ分析とは、複数の研究結果をまとめて全体の傾向を調べる方法です。ただし、この研究で扱う「行動管理」を、訪問件数のノルマだけと同じものとして読むことはできません。

出典:Samaraweera & Gelb(2015)「Formal salesforce controls and revenue production: a meta-analysis」

また、104研究を対象にした別のメタ分析では、管理方法と成果などの関係に加え、市場の変動や製品の複雑さとの関係が報告されています。

出典:de Oliveira Santiniほか(2019)「Behaviour-Based and Outcome-Based Control Systems: A Meta-Analytic Study」

これらを踏まえると、僕は「管理するか、しないか」より、何を改善するために、どの活動を見るのかを考えたいです。どの研究も、自分の職場の訪問目標が適切かどうかを、そのまま判定してくれるものではありません。

営業KPIは、件数・仕事の中身・結果をつなげて考える

僕なら、訪問件数を別の数字に置き換えるだけでなく、「何が進んだか」を一緒に確かめる方法を考えます。

例えば一般的な法人営業なら、次のような見方ができます。すべてを新しいノルマにする提案ではありません。

改善したいこと確認する候補数字だけに任せない確認
新しい相手との接点を増やす対象顧客との面談件数会いやすい相手だけに偏っていないか
提案のずれを減らす課題や条件を確認できた案件「確認できた」とする根拠は何か
問い合わせ対応を良くする合意した期限内に対応できた割合回答が正確で、必要な内容を含むか
継続的な取引を支える更新・継続の状況担当者以外の商品・価格・市場要因は何か

「質を評価しよう」と言うだけでは、また曖昧な評価になってしまいます。何をもって対応完了とするのか、どの記録で確認するのかまで決める必要があります。

そのうえで、一定期間ごとに、活動と結果のつながりを振り返る。売上につながるまでの時間も考え、同じ月の件数と売上だけで判断しないことが大切だと思います。

なお、すべての活動を目先の売上で評価するわけでもありません。医薬品に関わる活動では、適切な情報提供や法令・業界規範の遵守が前提です。厚生労働省は医薬品等の広告規制を示し、製薬協もコード・オブ・プラクティスを定めています。

短期的な売上が増えなかったことだけで、必要な情報提供や対応を無駄と決めることはできません。

KPIに納得できないとき、現場で確認したい3つのこと

制度全体をすぐに変えるのは難しくても、自分が何に引っかかっているかは整理できます。

1.活動の事実と、自分の解釈を分ける

会社で認められた記録方法を使い、実施した活動と、その後の変化を残します。

例えば「質問を受け、期限内に回答した」は事実です。「信頼されたから相談が来た」は自分の解釈です。どちらも振り返りには役立ちますが、混ぜない方が話し合いやすくなります。

会社や顧客の情報を、私物の端末や外部サービスへ持ち出す必要はありません。既存の記録で確認できることから始めれば十分です。

2.「意味がない」より、確認したい点を具体的にする

上司に相談するなら、例えば次のような聞き方が考えられます。

この活動は、件数に含める理解で合っていますか。今後も同じ基準で記録したいので、判断方法を確認させてください。

訪問件数に加えて、お客さんの課題や、その後に進んだことも一緒に振り返れますか。どの活動が役立っているかを確かめたいです。

評価では、どの活動を、どの記録に基づいて判断するのか、具体例を教えていただけますか。

「管理を減らしてほしい」だけでなく、「何を確かめたいか」まで伝えると、相談の論点がはっきりします。

3.小さな見直しを相談する

最初から指標の全面変更を求めなくても、振り返り方を一つ変える案は出せます。

例えば、合意した期間だけ、訪問件数と一緒に「面談の目的」「確認できた課題」「次の対応」を見る。その結果から、続けるべき活動と見直したい活動を相談します。

新しい管理項目を増やしすぎると、今度は記録自体が負担になります。すでにある記録を使い、見直す日も決めておくくらいが、取りかかりやすいと思います。

KPIを、次の仕事を良くするために使いたい

僕は、営業の管理をすべてなくせばよいとは思いません。活動が見えることで、改善できることもあるからです。

ただ、数字を達成したあとに「それで、お客さんに何を届けられたのか」が残らないなら、指標の使い方を見直したい。

何を1件と数えるのか。その数字を見て、次に何を変えるのか。

今のKPIに違和感があるなら、まずはこの二つを確認するところから始めてみてください。

僕自身は、必要なときに相談してもらい、役立つ情報を届けられる営業でありたいです。そのために何をするか、自分で考える余地も大切にしたいと思っています。

自分で考え、働き方を選びたいという気持ちは、仕事が嫌いじゃないのに、僕がFIREを目指している理由にもつながっています。

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